心が満ち足りている時、わたしは歌を詠めません。
歌は常に、いくばくかのかなしみとともにあるのだと思います。
私は眼が悪い。
自然の現象を、よく見る事ができません。
だからどうしても、
心の中のかなしみに頼ってしまう。
こんなことを先生に聞かれたら、
きっと叱られてしまいます。
観ることが大事だって先生は常におっしゃっていました。
まずは写実。
けっして歌ってはいけない。
自ずから歌にならなければならないのだと。
先生ごめんなさい。
わたしはまだ、かなしみを手放せそうにありません。
私の眼がもっとよかったら、
世界の見え方がもっと明るかったら。
わたしのかなしみも、もっと小さかったかもしれません。
ひとは言います。
世の中には見たくなくても見えてしまうものもたくさんある。
はじめから見えない方があるいは幸せかもしれないよと。
違います。
徐々に見えなくなっていく悲しみ。
それはどんどん世界が失われていくということなのです。
私の世界が光を失っていく。
私の世界が小さくなっていく。
世界には汚いことや辛いこと、悲しいこともあるでしょう。
しかしそれらは、それすらをも感じられなくなるという悲しみの深さには及ぶべくもありません。
だから私は、
この世界が大好きです。
他の人が見ている世界よりも少しだけ光の少ない私の世界。
それはかけがえのない、たいせつな場所なのです。
そんなこの世界のどこかにいるその人に、いつか私の歌が届いたらいい。
今日の歌
銀星のあまたきらめく春の夜黒猫チュネは旅立ちました さえね