001:声 あけがたの動物園でただ一度ろばが鳴くてふ声なき声で
むかしよく読んだ童話がありました。「ろばのないた日」というような題名だったと思います。
その動物園にはろばがいるのですが、誰もその鳴き声を聞いたことがありません。ろばは鳴かないのかなとみんな思っていました。
ところがある朝、誰もがまだ眠りについている頃に、ろばはただ一度、鳴いたのです。
その声は長く伸び、なんとも悲しい音色だったといいます。
ろばは何を思って啼いたのでしょうか。それは誰にも分かりません。
誰にも分からないかなしみ。それはだれもが密やかに抱えているものではないでしょうか。
朝もやの立ち込める朝の動物園を舞台に、私のマラソンは始まりました。